・・・踏切りを通過する毎にけたたましく警笛が鳴る。工場のひけ時で人通りの激しい夕暮の長い陸橋の上で電燈が燦きはじめた。田舎の間を平滑に疾走して来た列車は、今或る感情をもって都会へ自身を揉み入れるように石崖の下や複雑な青赤のシグナルの傍を突進してい・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・ おや、しゃれた警笛が鳴るじゃないか。なるほど乗合自動車はやっとロンドン市自用車疾走区域に入った。 汽船会社が始まった。また汽船会社がある。何とかドック会社がある。船舶保険株式会社がある。再び汽船会社だ。 その建物全体が・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 若い真面目な女のひとが、真実今日の生活に何かの空虚感を感じたとしたら、それは、急速に、努力的に充填されなければならない個人的・社会的生活の空白に対する警笛として、寧ろ動的に、推進力として自覚されなければならないのだと思う。 これを・・・ 宮本百合子 「私たちの社会生物学」
出典:青空文庫