・・・そこに警部らしい髯だらけの男が、年の若い巡査をいじめていた。穂積中佐は番附の上へ、不審そうに眼を落した。すると番附には「ピストル強盗清水定吉、大川端捕物の場」と書いてあった。 年の若い巡査は警部が去ると、大仰に天を仰ぎながら、長々と浩歎・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・己れっちらの境涯では、四辻に突っ立って、警部が来ると手を挙げたり、娘が通ると尻を横目で睨んだりして、一日三界お目出度い顔をしてござる様な、そんな呑気な真似は出来ません。赤眼のシムソンの様に、がむしゃに働いて食う外は無え。偶にゃ少し位荒っぽく・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・ 十二人の名誉職、医者、警部がいずれも立つ。のろのろと立つのも、きさくらしく立つのもある。顔は皆蒼ざめて、真面目臭い。そして黒い上衣と光るシルクハットとのために、綺麗に髯を剃った、秘密らしい顔が、一寸廉立った落着を見せている。 やは・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・「そうか、警部か。それはえらいね。僕はまたね、巡査としては少し変なようでもあるし、何かと思ったよ」「白服だからね、一寸わからないさ」 二人は斯んなことを話し合いながら、しばらく肩を並べてぶら/\歩いた。で彼は「此際いい味方が出来・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・と冷淡な態度で言放ったが、耕吉が執固く言だすと、警部など出てきて、「とにかく御苦労です」といった調子で、小僧を引取った。で、「喰詰者のお前なぞによけいな……」こう後ろから呶鳴りつけられそうな気もされてきて、そこそこに待合室へ引返して「光の中・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ここは天子さんのとこでそんな警部や何かのとこじゃないんだい。ずうっと奥へ行こうよ。」 私もにわかに面白くなりました。「おい、東北長官というものを見たいな。どんな顔だろう。」「鬚もめがねもあるのさ。先頃来た大臣だってそうだ。」・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・気がついて見るとロザーロのあとからさっきの警部か巡査からしい人が扉から顔を出して出て行くのを見ていたのです。わたくしがそっちを見ますと、その顔はひっこんで扉はしまってしまいました。中ではこんどは山猫博士の馬車別当が何か訊かれているようすで、・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・と、八月一日から十五日まで泉川検事と渡辺警部によって主として組合の「細胞会議について特に追求されたのであります。」そして逮捕の理由を追求する被告に対して「捜査官は容疑の点というものはタネだ。タネをあかすことはできない。」渡辺警部はしきりに若・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・に役に立つ警部であった。マクシム・ゴーリキイがカザンへ出て来た時分、十三ばかりであったシャポワロフは、ペトログラードの鉄道工場で朝七時から夜の十時半まで働いていた。給料は一日三十哥であった。工場の大人共はシャポワロフに「仕事を教えるかわりに・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 翌朝深淵の家へは医者が来たり、警部や巡査が来たりして、非常に雑した。夕方になって、布団を被せた吊台が舁き出された。 近所の人がどうしたのだろうと囁き合ったが、吊台の中の人は誰だか分からなかった。「いずれ号外が出ましょう」などと云う・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫