・・・この……県に成上の豪族、色好みの男爵で、面構も風采も巨頭公によう似たのが、劇興行のはじめから他に手を貸さないで紫玉を贔屓した、既に昨夜もある処で一所になる約束があった。その間の時間を、紫玉は微行したのである。が、思いも掛けない出来事のために・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ ことごとく、これは土地の大名、城内の縉紳、豪族、富商の奥よりして供えたものだと聞く。家々の紋づくしと見れば可い。 天人の舞楽、合天井の紫のなかば、古錦襴の天蓋の影に、黒塗に千羽鶴の蒔絵をした壇を据えて、紅白、一つおきに布を積んで、・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・普通の大臣豪族よりも、有意義な生活を送って、皆それぞれに人生の大目的に貢献しております。 理想とは何でもない。いかにして生存するがもっともよきかの問題に対して与えたる答案に過ぎんのであります。画家の画、文士の文、は皆この答案であります。・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・その争いに今ならば暴力団のような形でやとわれた武士が土地の豪族の勢力と結んで擡頭して来て不在地主であった公卿を支配的地位から追い、武家時代があらわれた。やがて戦国時代に入る。ヨーロッパにルネッサンスの花が開きはじめた時代から日本が武家時代に・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫