・・・ それに、吉弥が馬鹿だから、のろけ半分に出たことでもあろう、女優になって、僕に貢ぐのだと語ったのが、土地の人々の邪推を引き起し、僕はかの女を使って土地の人々の金をしぼり取ったというように思われた。それには、青木と田島とが、失望の恨みから・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・それも今日母上や妹の露命をつなぐ為めとか何とか別に立派な費い途でも有るのなら、借金してだって、衣類を質草に為たって五円や三円位なら私の力にても出来して上げるけれど、兵隊に貢ぐのやら訳もわからない金だもの。可いよ、明日こそ私しが思いきり言うか・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 如何にも、女に金を貢ぐために、偽せ札をこしらえていたと断定せぬばかりの口吻だ。 彼は弁解がましいことを云うのがいやだった。分る時が来れば分るんだと思いながら、黙っていた。しかし、辛棒するのは、我慢がならなかった。憲兵が三等症にかゝ・・・ 黒島伝治 「穴」
出典:青空文庫