・・・では主人公クライドにとってのりこえられなかった貧富の堰ものりこえる代りに、人間としての生活の自主を全く喪って、英雄業者として四六時ちゅう行動を掣肘され支配され、ハリウッドのスタアのような人為的雰囲気で生存しなければならない悲惨を、バート・ホ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・しかし、官員万能であり、時を得た人、成り上がりが幅をきかしても一般には思うにまかせない貧富の差、生活向上をねがう人間の権利に対する機会の不平等などは、平等という言葉が感情に植えられただけに、つよく意識された。国内政治の現実にその胸の思いを実・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・十六歳だったシャポワロフは、原始キリスト教の理想を実現して、貧富の相異が消せるかと思ったのであった。 ゴーリキイがカザンで、デレンコフの店の裏の小部屋に坐ってナロードニキの討論に耳を傾けている、その時、シャポワロフは遠くペテルブルグにあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ この『煉瓦女工』と『娘時代』とは、作者の環境として貧富のちがいが極めて著しい。だが、私たちの関心がひかれるのはそういう偶然の貧富の単純な対照ではなくて、この二人の娘さんたちが、それぞれの意味で自分の環境内に立てこもっていて、互が互の社・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・作品でない日記をよむと、一葉が生活と苦闘して、女が社会からうけている扱い、又女同士の間、文学の仲間たちにさえある貧富の懸隔とその心理などについてどんなに鋭く感じ、疑い、悩んでいるかがよくわかる。しかし、当時の彼女の「文学」という観念は、それ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・後者は、人間社会に、何故貧富の差が生じたか。その社会的な不幸をなくしようとして、優れた人々がどんなに努力して来たか。そして、この人間らしい努力は、だんだん空想的な方法から科学的な理解と方法とを発見して来て、今日、私どもの将来に幸福建設の可能・・・ 宮本百合子 「私の愛読書」
出典:青空文庫