・・・しかるに、昨年の秋、山田君から手紙が来て、小生は呼吸器をわるくしたので、これから一箇年、故郷に於いて静養して来るつもりだ、ついては大隅氏の縁談は貴君にたのむより他は無い、先方の御住所は左記のとおりであるから、よろしく聯絡せよ、という事であっ・・・ 太宰治 「佳日」
・・・「――貴君じゃあるまいし」「なに? なに?」 ふき子が、従姉の胸の前へ頭を出して、忠一の手にある献立を見たがった。「サンドウィッチ」すると、彼女は急に厳粛な眼つきをし、「あら、ここの美味しいのよ」と真顔でいった。彼等・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ ――助けよ ――一杯やる前に遺言に署名せよ。貴君の遺言中に当院への遺贈を記入されんことを。 ――何処にあるか。 何をしているか。 何を必要としているか。 助を求めて!! 火花を飛ばしているのは病院孤児院ばか・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫