・・・そして却って、地主で立候補した者に買収されたりするのである。 政治狂 一村には、一人か二人、必ず政治狂がいる。彼等は、政友会か、民政党か、その何れかを──している。平常でも政治の話をやりだすと、飯もほしくないくらいだ。浜・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・そこで「国際資本団体は夢中になって、敵手から一切の競争能力を奪わんと腐心し、鉄鉱又は油田等を買収せんと努力している。而して、敵手との闘争に於ける一切の偶発事に対して独占団体の成功を保証するものは、独り植民地あるのみである。」だから、資本家は・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ 敷地買収の交渉が来た。 一畝、十二円六十銭で買った畠を、坪、二円三十銭で切り出して来た。一畝なら、六十九円となる訳だ。 親爺は、自家に作りたい畠だと云って、売り惜んだ。 坪、二円九十銭にせり上った。 親爺は、地味がいゝ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・に写真機を向けて撮る真似をされたので平生妻君恐怖症にかかっているらしい社長はこの靴磨きを妻君からわざわざさし向けられた秘密探偵社の人とすっかり思い込んでしまってこの実はフィルムのはいっていない写真機の買収にかかる。これは自分達の器械じゃない・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・または三井とか岩崎とかいう豪商が、私を嫌うというだけの意味で、私の家の召使を買収して事ごとに私に反抗させたなら、これまたどんなものでしょう。もし彼らの金力の背後に人格というものが多少でもあるならば、彼らはけっしてそんな無法を働らく気にはなれ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ そんな話を聞いていると、私は左翼の者を引っぱるために、警察が飲食店の女中たちを一人つかまえさせればいくらときめて買収しているということを思い出した。交番の巡査が、何でも引っぱって来て一晩留置場へぶちこみさえすれば五十銭。共産党関係だっ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・新聞を買収してレオン・ドーデと似たようなことを考え、行った。そして、巴里のムーラン・ルージュの黒人の踊子のジョセフィン・ベイカアを寵愛して、ジョセフィン・ベイカアと云えば、コティの白粉を知っているぐらいの日本の人は知らない者はない世界のレビ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・それは在住支那人の数名のものを買収なさい。日本人を捕える時には、それは不可能ですが、支那人を捕える時には、それが唯一の手段です。」というような辞句を示している。去年の秋の作品であるが、この粗大な、民族的類型化を卓抜な科学者であるという沼・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・バルザックが実際社会に日夜接触する男たちは、自身の没落によってか、さもなければ成り上りの野望の成就、そのための陰謀、偽善、買収のために疲れ、心配気で、本当の笑顔を失った男たちばかりである。テエヌは十九世紀初頭の「パリは全世界のあらゆる思想が・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・旧政権の時代、買収でかためて来た「地盤」をそのまま利用して、今日演説会へ来るものには種を袋へ入れてやったり、胡麻をやったり、タバコ、マッチという機微をうがった餌を出している。東京ではさすがにそれをやらず、地方でやっている。私たちは婦人の政治・・・ 宮本百合子 「婦人の一票」
出典:青空文庫