・・・元来椿岳というような旋毛曲りが今なら帝展に等しい博覧会へ出品して賞牌を貰うというは少し滑稽の感があるが、これについて面白い咄がある。丁度賞牌を貰って帰って来た時、下岡蓮杖が来合わした。こんなものよりか金の一両も貰った方が宜かったと、椿岳がい・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・代の嫡孫色男の免許状をみずから拝受ししばらくお夏への足をぬきしが波心楼の大一坐に小春お夏が婦多川の昔を今に、どうやら話せる幕があったと聞きそれもならぬとまた福よしへまぐれ込みお夏を呼べばお夏はお夏名誉賞牌をどちらへとも落しかねるを小春が見る・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・同協会から賞牌を贈られたのは多分これに関聯してではなかったかと想像される。また船舶の胴体に働く剪断応力の分布について在来の考えの不備な点を考察した論文がある。これも重要なもので、多くの外国の教科書等にも同君のこの論文が引用されている。また船・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・木村氏が五百円の賞金と直径三寸大の賞牌に相当するのに、他の学者はただの一銭の賞金にも直径一分の賞牌にも値せぬように俗衆に思わせるのは、木村氏の功績を表するがために、他の学者に屈辱を与えたと同じ事に帰着する。――明治四四、七、一四『東京朝・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・墓碣と云い、紀念碑といい、賞牌と云い、綬賞と云いこれらが存在する限りは、空しき物質に、ありし世を偲ばしむるの具となるに過ぎない。われは去る、われを伝うるものは残ると思うは、去るわれを傷ましむる媒介物の残る意にて、われその者の残る意にあらざる・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・その蒼白い疲れた顔を見た人は、それが世界のキュリー夫人であり、ノーベル賞の外に六つの世界的な賞を持ち、七つの賞牌を授けられ、四十の学術的称号をあらゆる国々から捧げられているキュリー夫人であるということを信じるのはおそらく困難であったろう。十・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・「スターリングラードが六台の土鋤機を欲しているときに、世界は一個のごまかしの賞牌をその胸に飾ったのである」と。 だけれども、スターリングラードの夕暮、彼に忘れがたい感銘を与えた一人の少年の姿――夕方になると共同墓地に葬られた父を必ず訪れ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・粗末な板壁のある街角で黄色い髪をした小学生たちがふと出合って、互いにはにかんでいる絵は、題材の自然さと、描写の活々としたたしかさとで誰の目にも賞牌候補と思われたが、作者のマリアが、金にこまらない貴族の美しい娘であることが、意外の誹謗の原因と・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫