・・・ どんなに、小さくとも、また、名がなくとも、純粋で、美しかったら、正しかったら、天地の間に、何ものかの力を賦与している。また、何ものの力をもってしても、何うすることもできない。それは、確乎たる存在である。 もし、それが詩人であったな・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・彼を絶えず照した怠惰の青い太陽は、天が彼に賦与した才能の半ばを蒸発させ、蚕食した。巴里、若しくは日本高円寺の恐るべき生活の中に往々見出し得るこの種の『半偉人』の中でも、サミュエルは特に『失敗せる傑作』を書く男であった。彼は彼の制作よりも寧ろ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・しかし博士でなければ学者でないように、世間を思わせるほど博士に価値を賦与したならば、学問は少数の博士の専有物となって、僅かな学者的貴族が、学権を掌握し尽すに至ると共に、選に洩れたる他は全く一般から閑却されるの結果として、厭うべき弊害の続出せ・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・ 婦人代議士ばかりがかたまろうとするならば、その集団の力で内外へ働きかけ、各自の党が、婦人代議士たちの存在に組織的な現実性を賦与するよう、組織の内部へ正直に婦人代議士をも編み込むよう活動することに、最良の、そして最も適切な方向がある。も・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 宇宙のあらゆる善美、人類のあらゆる高貴を感じ得るのは、ただ、私自身の裡に賦与された、よさ、まこと、によってのみなされることではありますまいか。 こころよ、心よ……。私は、恭々しく謹んで、微弱な、唯一の燈火を持運びます。〔一九二・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 然し、私共は、先ず何の為に此等の諸権能の享有と云う事が要求されるかを考えて見なければなりません、又何の為に其等が賦与されるかに就ても考えて見なければならないのでございます。此等政治的法律的権利を保有して社会生活の当面に人格的独立を宣言・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 芸術家としての素質に就いて女性をどう観るかという事に就いては、私は女性にも十分に芸術家になり得る天分は賦与されていると思います。趣味の上から、その生活に湿いのある点から、或いはその環境が女性の上に及ぼす体験から、到底男性に持ち得ないと・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・このように、ソヴェト同盟という社会主義社会では、一人一人の男女市民がその能力・才能と生活経験において独特な幅と質とを賦与されているという事実を、しいて無視し、さげすみ、誹謗して自身の壊滅の素因をつくったのがナチスであった。 こんどの大戦・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・然し私自身ではない――つまり、それによって、私が慰撫され、啓発され、人間らしい豊富な感情の一面を感得するものでありながら、自身の裡には乏しくほか生来持合わせない何ものかを、貴女の性格には豊饒に賦与されておられるということなのでございます。・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・おくれた資本主義国として、半封建のまま忽ち帝国主義に発達するテンポの早い歴史は、日本のインテリゲンチアに敏捷な適応性を賦与していると同時に、勤労大衆の日常生活をきわめて低い水準にとどめている封建的圧力そのものが、インテリゲンチアの精神にもき・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫