・・・ 自分は今日になっても大川の流のどの辺が最も浅くどの辺が最も深く、そして上汐下汐の潮流がどの辺において最も急激であるかを、もし質問する人でもあったら一々明細に説明する事の出来るのは皆当時の経験の賜物である。 午後に夕立を降して去った・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・ではどうしてこの急場を切り抜けるかと質問されても、前申した通り私には名案も何もない。ただできるだけ神経衰弱に罹らない程度において、内発的に変化して行くが好かろうというような体裁の好いことを言うよりほかに仕方がない。苦い真実を臆面なく諸君の前・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・と津田君は幽霊を研究するだけあって心理作用に立ち入った質問をする。「あんまり主人らしい心持もしないさ。やっぱり下宿の方が気楽でいいようだ。あれでも万事整頓していたら旦那の心持と云う特別な心持になれるかも知れんが、何しろ真鍮の薬缶で湯を沸・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・夫の智徳円満にして教訓することならば固より之に従い、疑わしき事も質問す可きなれども、是等は元来人物の如何に由る可し。単に夫なればとて訳けも分らぬ無法の事を下知せられて之に盲従するは妻たる者の道に非ず。況して其夫が立腹癇癪などを起して乱暴する・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ かつ君に質問することあり。君が維新の前後、しきりに国事に奔走して政談に熱したるは、その年齢およそ幾歳のころなりしや。この時にあたりて、世間あるいは君の軽躁を悦ばずして、君に忠告すること、今日、君が我々に忠告するが如き者はなかりしや。当・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ *一千九百廿五年十月十六日一時間目の修身の講義が済んでもまだ時間が余っていたら校長が何でも質問していいと云った。けれども誰も黙っていて下を向いているばかりだった。ききたいことは僕だってみんなだ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ きょうの若い女性に出あって、一つ、きわめて率直な質問をいたします。あなたは、あなたのお母さんが生きていらしたとおりの女の一生を御自分でくりかえして見たいとお思いですか、と。――そうきかれたとき、幾人のかたがイエスとお答えなさるでしょう・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・追々質問します」と、F君は云った。 これでF君が漫りに大言荘語したのでないと云う事だけはわかった。しかしそれ以外の事は、私のためには総て疑問である。私はこの疑問を徐々に解決しようと思った。只その中に急に知らなくてはならぬ事が一つある。そ・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・私が何をしていくかという質問を出された前では、ただ自分は爆けていき、はみ出して行きたいと望んでいると答えるより、今のところ答弁は見つかりそうもない。 横光利一 「作家の生活」
・・・ 何かのおりに、どうして京都大学を早くやめられたか、と先生に質問したことがある。その時先生は次のようなことを答えられた。自分は江戸時代の文芸史の講義をやるはずになっていたが、いよいよ腰を据えてやるとなると、自分の好きな作品や作家だけを取・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫