・・・勿論金を出して新聞を購読するような余裕はない時代であるから、新聞社の前に立って、新聞を読んでいると、それに「冠弥左衛門」という小説が載っている。これは僕の書いたもののうちで、始めて活版になったものである。元来この小説は京都の日の出新聞から巌・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・畢竟するに戯作が好きではなかったが、馬琴に限って愛読して筆写の労をさえ惜しまず、『八犬伝』の如き浩澣のものを、さして買書家でもないのに長期にわたって出版の都度々々購読するを忘れなかったというは、当時馬琴が戯作を呪う間にさえ愛読というよりは熟・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・最も驚くべきは『新声』とか何々文壇とかいうような青年寄書雑誌をすらわざわざ購読して、中学を卒業したかそこらの無名の青年の文章まで一々批点を加えたり評語を施こしたりして細さに味わった。丁度植物学者が路傍の雑草にまで興味を持って精しく研究すると・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・『新ロマン派』も十月号より購読致し、『もの想う葦』を読ませて戴き居候。知性の極というものは、……の馬場の言葉に、小生……いや、何も言うことは無之候。映画ファンならば、この辺でプロマイドサインを願う可きと存候え共、そして小生も何か太宰治さま、・・・ 太宰治 「虚構の春」
明治三十二年に東京へ出て来たときに夏目先生の紹介ではじめて正岡子規の家へ遊びに行った。それとほとんど同時に『ホトトギス』という雑誌の予約購読者になったのであったが、あの頃の『ホトトギス』はあの頃の自分にとっては実にこの上も・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・その頃の書生は新刊の小説や雑誌を購読するほどの小使銭を持っていなかったので、読むに便宜のない娯楽の書物には自然遠ざかっていた。わたくしの家では『時事新報』や『日々新聞』を購読していたが『読売』の如きものは取っていなかった。馬琴春水の物や、『・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ゴロツキ新聞の排除、用紙配給の是正、購読者の要求への即応という掘割をとおって、戦後の小新聞は、民主的な性格のものをふくめて、大企業新聞に吸収された。そして、一九四九年の秋の新聞週間には「新聞のゆくところ自由あり」と、記者たち自身にとってもけ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 日本のいたるところにそれほど自由があって、自由な人々の戸口の前に自由な新聞がくばられてでもいるような思いちがいをおこさせる。購読者がこんにちの新聞からうけている感情の一面をあるとおりに云いあらわせば、新聞のゆくところ自由があるという言・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・赤いリボンで飾ったレーニンとクララ・ツェトキンの肖像画、『労働婦人』二年間の購読券。アガーシャ小母さんが踊る間、それは今ニーナが笑いながら大事に抱えて持ってやっている。 労農通信員のマルーシャが、みんなにからかわれながら、額におちてくる・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・の記念、三月八日の国際婦人デーの記念のため、近づいて来たメーデーまでに『働く婦人』直接購読者を倍にふやそう! メーデーは、皆さんも御承知の通り世界のプロレタリア・農民の男女が一斉に立って、勤労階級の団結の力を敵の前に示威する国際的な日で・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
出典:青空文庫