・・・村役場から配布される自治案内に、七分搗米に麦をまぜて食えば栄養摂取が十分になって自から健康増進せしむることができると書かれてあって、微苦笑を催させずに措かなかったのはこの二月頃だったが、産業組合購買部から配給される米には一斗に二升の平麦が添・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・食うものも着るものも必要なだけ購買組合からあてがわれる。俺らは、ただ金を取るために、危いことだって、気にむかないことだって、何だってやっている。内地でだってそうだ。満州でだってそうだ。ところが、彼れらは、金を取るためではなく、自分たちの生活・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・自動車屋、会社の購買、商店等をまわり、一種の御用聞きをつとめるのです。大抵は鼻先で追い返されますし、ヘイヘイもみ手で行かねばならないので、意気地ない話ですが、イヤでたまりません。それだけならいいんですが、地方の出張所にいる連中、夫婦ものばか・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・もとより、僕にとっては、市場に山ほどの品物が積まれてあっても、それを購買する能力は無く、ただ見て通るだけなのですが、それでも何だか浮き浮きした気持ちになり、また、時たま友人たちと、屋台ののれんに首を突込み、焼鳥の串をかじり、焼酎を飲み、大声・・・ 太宰治 「女類」
・・・下駄ひとつ買うのにも、ひとつきまえから、研究し、ほうぼうの飾窓を覗いてみて、値段の比較をして、それから眼をつぶって大決意を以って、下駄の購買を実行する。下駄のながもちする履きかたも、私は、ちゃんと知っている。路を行くときは、きわめてゆっくり・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・それはちょうど手ぬぐい浴衣もあればつづれ錦の丸帯もあると同様なわけであって、各種階級の購買者の需要を満足するようにそれぞれの生産者によって企図され製作されて出現し陳列されているに相違ない。 商品として見た書籍はいかなる種類の商品に属する・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・こうすれば雑誌の編輯者とか購買者とかにはまるで影響を及ぼさずに、ただ雑誌を飾る作家だけが寛容ぐ利益のある事だから、一雑誌に載る小説の数がむやみに殖える気遣はない。尤も自分で書いて自分で雑誌を出す道楽な文士は多少増かも知れないが、それは実施の・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・固より一般の需要は十円内外の低廉な種類に限られているのだろうが、夫にしても、一つ一銭のペンや一本三銭の水筆に比べると何百倍という高価に当るのだから、それが日に百本も売れる以上は、我々の購買力が此の便利ではあるが贅沢品と認めなければならないも・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・ そのために、各種の現存の機構、組合にしろ、購買組合にしろ、それはどのように運営される可能があるか。私たちは改めてこのことについて学びたいと思っている。 こうして、各面で婦人の参加が積極的な、重大な意味をもって来るとき、日本の民法が・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・しかし、人民の購買力は、無限ではない。刻々買いかねる方向を辿っている。腕をもっている人たち、働けば拵えられる人々が、坐って飢えるのを待っているだろうとは思われない。拵えたものが農村で入用だのに、その代りとして農産物を出したくないという非常識・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
出典:青空文庫