・・・ジュリアンやファブリスという主人公の、個人的情熱の可能性を追究することによって、人間いかに生くべきかという一つの典型にまで高め、ベリスム、ソレリアンなどという言葉すら生れたし、またアンドレ・ジイドは「贋金つくり」によって、近代劇的な額縁の中・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・戸を締め切って窓掛を卸して、まるで贋金を作るという風でこの為事をしたのである。 翌朝国会議事堂へ行った。そこの様子は少しおれを失望させた。卓と腰掛とが半圏状に据え付けてある。あまり国のと違っていない、議長席がある。鐸がある。水を入れた瓶・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ジイドは、ロマン・ロランとともに外国の作家としてはいつか勉強したいが「贋金つくりの日記」の中に感情と情熱との相異について書いている。その相異を知らぬものが、人生から感得するものは、いかに貧弱であるかということを云っている。私はこの三四年作家・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ジイドの「贋金つくり」と引き合され、これらの二つの作品と、二人の作者の態度が全く対蹠的であることで目立つというのは尤もであろう。「贋金つくり」において作者の興味をとらえているのは、人間性の時代的なこわれかたとその各破片のままの閃きの姿である・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・をかげでは嗤った。贋金つくり、魔法師、背信者だのと云って噂している。 ゴーリキイはだんだんこの「結構さん」と仲よくなった。ある晩、有名な物語上手である祖母の話を聞いているうちに、この「結構さん」は激しく涙を落しはじめ、興奮して長くしゃべ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・をかげでは嗤って、贋金つくりだの、魔法師だの、背信者だのと噂している。荷馬車屋、韃靼人の従卒、軍人とジャム壺をもって歩いてふるまいながらおしゃべりをすることのすきな陽気なその細君などという下宿人の顔ぶれの中で、この「結構さん」は何という変な・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・純粋小説云々のことも、あながち、スタンダールの言葉をアンドレ・ジイドが「贋金つくりの日記」の中で引用している、その言葉の模倣のみではなかったであろう。動いたり、飛びついたり、突ころがしたりすることの絶対にない活字に、印刷されているフランスや・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫