・・・ラプンツェル、お前は、もう赤ちゃんを産んだのだよ。お母ちゃんになったのだよ。」 ラプンツェルは、かすかな溜息をもらして、静かに眼をつぶりました。王子は激情の果、いまはもう、すべての表情を失い、化石のように、ぼんやり立ったままでした。・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
去る十二月十九日午後一時半から二時の間に、品川に住む二十六歳の母親が、二つの男の子の手をひき、生れて一ヵ月たったばかりの赤ちゃんをおんぶして、山の手電車にのった。その時刻にもかかわらず、省線は猛烈にこんで全く身動きも出来ず・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・片手は軽くその赤ン坊の縫いぐるみのおもちゃらしいものにふれている。赤ちゃんは男の児である。肥だちよくくりくりと丸くて、夏の白いベビイ服の短袖から、くびれて可愛い腕がむき出ている。日本でいえば丁度はいはいごろの赤ちゃんである。笑うような、さて・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ と言って出掛けられるようにしてありますが、赤ちゃんは悠々としています。お乳は出そうです。どんな骨折りをしても、今年はお乳がなければなりません。母子の為に。 ヴォラールの「セザンヌ伝」を読んでもらっていると、一八九二、三年頃「落選画家の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・深夜、一台の俥に脚の不自由なしづ氏と赤ちゃんが乗り、良人であったU氏が傍について西片町の瀧田氏を訪ねて来られたのだそうだ。金策の相談があった。けれども、瀧田氏は、誰でも知るあの言葉つきで、「断りました」と云った。「なぜ?」「・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・ad reached the time of life, when one can live no longer without a mate.” ○「檀那様、表で赤ちゃん抱いてこっちのすること見て居るの・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ ――こんどは、このひとの赤ちゃんを願います。 そう引き合わされてタマーラは笑い、すこし顔を赧らめた。 ――ミーチャが、今朝どうしたのか、托児所の二十日鼠を思い出したんです。そして、生きてるだろうかって心配してましたよ。 ―・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・家庭的雰囲気を感じ、頬笑んだ我々の前に現われたのは、十ばかりの洋服を着た女の子、赤ちゃんを重そうに抱いている。その赤ちゃんが、居留地の西洋の嬰児が着る通り裾の長い、白い洋装に纏まれている。女の子は、私共を見ると、直ぐ引かえして行った。「・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 随分にぎやかなんだねえ、 これじゃあ赤ちゃんも寝つかれまい。と云いながら、ワッワッとゆれる様な音を気にしだした。 わきで本を見ながらかるく叩いてやって居たのだけれ共、あんまりひどいので、蒸して来るのを心配しながら硝子を・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・子供たちは母のまわりをはなれないようにしながら、その辺で遊んでおり、赤ちゃんを洋装の上におんぶした若い母が、集って何か笑っている。一年生の遠足でもあるのをそこで待ちあわせている姉や母たちというその場の空気である。牧子は、「大分お集りだこ・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫