・・・電車の中にも省線のなかにも胸にしるしをつけた老若男女の姿があって、古風な紋付羽織を着たお父さんにつれられて、赤ちゃんを抱いた黒紋付の若い女のひとの姿などは、特に人々の眼をひきました。夜は、星空をサーチライトの光が青白く、幅ひろく動いていまし・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・何でも題は忘れたけれども、電燈の下で赤ちゃんに添乳していて、急に、この頭の上の電球が破裂して、子供に怪我をさせはしないかと考え出して怯えることを書いた作品は好きで今でも覚えている作である。それで、私は、素木さんが亡くなった時、お葬式にはゆか・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・――いいわね ターニャ、よく散歩して赧い赧い顔をした赤ちゃんを早くお生みよ――私子供がそりゃすきなんです それはターニャが、腹の重さで心地足を引ずるようにし乍ら、歩いて居る様子でよくわかった。 二十歳の、親なしの雑使婦のター・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
・・・メーデーであるきょうも、行進とともにすすむ歌声をよそに家庭の婦人は、小さい子供たちの手をひき背中に赤ちゃんをおんぶして、汗ばむようになったのにさっぱりした袷もないと思いながら、闇市で晩のお惣菜をあさらなければなりません。メーデーは、外で働い・・・ 宮本百合子 「メーデーと婦人の生活」
・・・「あれはね、皮膚が少し弱くて、おタダレのある赤ちゃんなのです、おむつがあのリボンのは特別なんです」 廊下を曲りくねって厚いガラス戸で仕切ってあるところへ来た。「その上っぱりを脱いで下さい」 脱いで、その仕切りを彼方側へ入ると・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・ そのことは、ことごとに私たちの日常の間で感じられているけれども、ついこの二三日前、弟のところで赤ちゃんが生れるについて、私たちがその名前を考えてやる役にまわった。家としての初孫だから、私の姑にあたる年よりもたのしみなわけで、子供をもた・・・ 宮本百合子 「若い母親」
出典:青空文庫