・・・長崎駅に下りて、赤帽に訊いて見ると、もう廃業して、ジャパン・ホテルだけの由、相談をし、兎も角其処へ行って見ることになった。雲が薄くなり、稀に、光った雨脚が京都と同じように乾きの早い白い道に降る。上海などへ連絡する船宿の並んだ通りをぬけ、港沿・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・僅かの旅客の後に跟き、私共は漠然期待や好奇心に満ちて改札口を出た。赤帽と、合羽を着た数人の俥夫が我々をとり巻いた。「お宿はどこです」「お俥になさいますか」「――ふむ――まだ宿をきめていないんだが、長崎ホテル、やっていますか」・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 旅客の姿、赤帽の赤い帽子、粗末な停車場なのが却って藍子の旅心を誘った。「どうします?」 尾世川がバスケットを取って戻って来た。「――このまんま帰っちゃうのも惜しいようだな」 二人は列車発着表の前へ立った。「――成田・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・手にカバンを下げた人や袋を持った人々が、さもいそがしそうに、出入りする中に混って、大きな黒人の赤帽が、群を抜いて縮毛の頭を見せています。 紐育と云う市は、何方かと云えば商業の中心地でありますけれども、華盛頓は皆さんも御承知の通り政治の中・・・ 宮本百合子 「私の見た米国の少年」
一九二九年私どもはモスクワからヨーロッパへ旅行に出かけて、ポーランドの首府ワルシャワへちょうど四月三十日の夕方についた。 雨が降っている。小さな荷物を赤帽に持たせて、改札口へ歩いて行くと、人混みの中からツバのヒラヒラし・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
出典:青空文庫