・・・その茶の間の一方に長火鉢を据えて、背に竹細工の茶棚を控え、九谷焼、赤絵の茶碗、吸子など、体裁よく置きならべつ。うつむけにしたる二個の湯呑は、夫婦別々の好みにて、対にあらず。 細君は名をお貞と謂う、年紀は二十一なれど、二つばかり若やぎたる・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・お米坊、机にそうやった処は、赤絵の紫式部だね。」「知らない、おっかさんにいいつけて叱らせてあげるから。」「失礼。」 と、茶碗が、また、赤絵だったので、思わず失言を詫びつつ、準藤原女史に介添してお掛け申す……羽織を取入れたが、窓あ・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・「万暦赤絵」とかいうものも読んだけれど、阿呆らしいものであった。いい気なものだと思った。自分がおならひとつしたことを書いても、それが大きい活字で組まれて、読者はそれを読み、襟を正すというナンセンスと少しも違わない。作家もどうかしているけれど・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・そういう一見はっきりした潔癖性、この人生における座の構えによって、その構えを可能にしている土台のある限り、志賀氏のリアリズムは「万暦赤絵」の境地に安坐するであろう。そう思ったのであった。「強者連盟」の梅雄の生活感情を読み、「新しき塩」で・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・の作者は「万暦赤絵」がその経済的知的貴族性から持っていない俗塵、世塵を正面から引かぶろうと構えているらしい。しかし、作者は自身の気構えのつよさに現実の苛烈さを錯覚しているところもある。志賀直哉氏の人為及び芸術の魔法の輪を破るには、志賀氏の芸・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫