・・・そうしてこの結合は、前にもいったごとく、両者とも敵をもたなかったことに起因していたのである。べつの見方をすれば、両者の経済的状態の一時的共通に起因しているのである。そうしてさらに詳しくいえば、純粋自然主義はじつに反省の形において他の一方から・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・歩かなくても電車や汽車やバスでどこまででも行けるではないかと云われるが、しかしそういう好季節の好天気の休日の交通機関に乗ってゆっくり腰をかけられるチャンスは少ないし、腰かけられたとしても、車内の混雑に起因する肉体的ならびに精神的の苦痛は、目・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ このような影像の間欠的なことに起因するフィルムの世界の特異性も、現在では利用されようとはせず、かえってむしろできるだけ避けようとして、そのほうに苦心が費やされているようである。しかしここにもいろいろな未来の可能性が伏在するであろう。・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・御馳走を喰えば栄養になり、喰い過ぎれば腹下りを起こすくらいのことは知っていたが、この、医学者でも物理学者でも何でもない助手M君の感冒起因説は当時の自分の医学上の知識を超越していたのである。 しかし、その当時気のついていたことは、何かしら・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・また陸上では起らぬようなタービンの故障が舶用タービンでしばしば起るのはタービン・ディスクの廻転に船の動揺が作用するためのジャイロスコピック・アクションに起因する盤の振動によるものであろうということに着目して、この不可解の問題を解決した。これ・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・多くの場合には、その地震が某火山の活動に起因するとか、あるいは某断層における地辷りに起因するとかいうような事が一通り分れば、それで普通の源因追究慾が満足されるようである。そしてその上にその地辷りなら地辷りが如何なる形状の断層に沿うて幾メート・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・二十万分の一の地図を手にして道路の小凹凸を索め、物体の温度を知りてその分子各箇の運動を知らんとすると同様なる誤解に起因す。 四 次に地震予報の問題に移りて考えん。地震の予報は果して可能なりや。天気予報と同じ意・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・もしかすると、ドイツ人がいったいに数理的科学に長じているように見えるのは、やはり同じ根気のよさ執拗さに起因しているのではないかという疑いが起こった。そう考えてみるとドイツ人の論文の中に、少なくもまれには、愚にもつかない空虚な考えをいかめしい・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・ 従来哲学の一部分であった科学が、近世の始め文芸復興期以来に長足の進歩をなした所以もまた科学の対象が能知者から解放された事に起因すると云ってもよい。科学が価値道徳の問題から離れて自由な天地を得たために始めて手足を延ばしたのである。しかし・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・これは帰朝の途上わたくしが土耳古の国旗に敬礼をしたり、西郷隆盛の銅像を称美しなかった事などに起因したのであろう。しかし静に考察すれば芸術家が土耳古の山河風俗を愛惜する事は、敢て異となすには及ばない。ピエール・ロチは欧洲人が多年土耳古を敵視し・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
出典:青空文庫