・・・堰堤工事の起重機や汽車の運動は、見ているとめまいを起こすほどであるが、しかしその編集法はやはり静的で動的でない。 冒頭のドニエプル河畔の茫漠たる風景も静的である。こういう自然の中に生まれた国民のまねを日本人がしようとするのはほんとうに無・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 汽車でアーヴルに着いてすっかり港町の気分に包まれる、あの場面のいろいろな音色をもった汽笛の音、起重機の鎖の音などの配列が実によくできていて、ほんとうに波止場に寄せる潮のにおいをかぐような気持ちを起こさせる。発声映画の精髄をつかんだもの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・これは映像の質量と距離とをほぼ正当に評価し想定するためにそうなるのであって、もしも前述の崩壊する煙突が、実物でなくて小さな雛形であると信ずることができるとすれば現象は不自然さを失ってしまうはずである。起重機のつり上げている鉄塊が実は張り抜き・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・時々起重機の巨大な黒い影が、重くゆっくり窓の外を横切った。〔一九三一年五月〕 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・さまざまな形で社会主義建設の骨格になり輪となり、起重機となり、鋲となる鉄の美しい力、篤志労働団はその間から叫ぶ。――生産経済プランを百パーセントに! 篤志労働団は叫ぶ。――いや。生産経済プランを一二〇パーセントまで! と。そして、新しい輝く・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 労働者住宅から八九丁のところに、起重機が突立ち工事が起されている。石油の試掘ではなく、数千人を入れることの出来る大労働者クラブが建つ、その基礎工事に着手したところなのだそうだ。 ホテルの前で自動車から下りた時はもう六時をすぎていた・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・鴎がその檣のまわりを飛んだ。起重機の響……。 ダーリヤの、どこまでも続く思い出を突然断ち切るように、階下で風に煽られたように入口が開いた。「あら、これ、家の娘さんですの、悧口そうな眼つきだこと……何ていう名なのお前さん」「我々の・・・ 宮本百合子 「街」
・・・架橋工事の板囲から空へ突出た起重機の鉄の腕が遠く聳えるウェストミンスタア寺院の塔の前で曲っている。河岸でも葉は黄色かった。トラックのタイアに黄葉が散ってくっついて走った。 PELL《ペル》――MELL《メル》は古風な英国の球ころがし・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・祖国ギリシャの敗戦のとき、シラクサの城壁に迫るローマの大艦隊を、錨で釣り上げ投げつける起重機や、敵船体を焼きつける鏡の発明に夢中になったアルキメデスの姿を梶はその青年栖方の姿に似せて空想した。「それにはまた、物凄い青年が出てきたものだな・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫