・・・複雑的美 思想簡単なる時代には美術文学に対する嗜好も簡単を尚ぶは自然の趨勢なり。わが邦千余年間の和歌のいかに簡単なるかを見ば、人の思想の長く発達せざりし有様も見え透く心地す。この間に立ちて形式の簡単なる俳句はかえって和歌より・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・土地の発展、時代の趨勢と称する土地分譲は、根に大きな底潮を持っている。迅く流れる河ばかり視ていると目がまわる。そのように、ああいうところに住んでは閉口と思うのである。 然しながら、それなら平穏なここがよいかと訊かれたら、私は直ぐ返事する・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
作家にとって教養というものは、どんな関係にあるのだろうか。これまでのいろいろの時代に、作家と教養のことが云われたのであったが、それぞれにその時代の文学的趨勢とでも云うべきものを、何かの形で反映していることは、今日私たちを考・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・、最も低い声で囁けることは、こんな自己と外界との劇しい揉合いを誰でも一度は経験するとしたなら、いざ自己の落付こうとする時、殆ど無意識にとる精神的態度の如何によって、次期の渾沌が生ずる迄の幾年かの人格的趨勢を暗示されるのではないかということで・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫