・・・バッタが驚いて足下から飛び出した。「いくら汚れてもよいように衣物を着換えて来たね。」精は無言でニコニコしている。足には尻の切れた草履をはいている。小川を渡って三軒家の方へ出る。あちこちに稲を刈っている。畔に刈穂を積み上げて扱いている女の赤い・・・ 寺田寅彦 「鴫つき」
・・・うなずきながら、足首までしろくなったじぶんの足下をみていると、長野がいつもの大阪弁まじりで、秋にある、熊本市の市会議員選挙のことをしゃべっている。深水はからだをのりだすようにして、「そりゃええ、パトロンが出来たなら、鬼に金棒さ、うん――・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 蛞蝓は一足下りながら、そう云った。「一体何だってんだ、お前たちは。第一何が何だかさっぱり話が分らねえじゃねえか、人に話をもちかける時にゃ、相手が返事の出来るような物の言い方をするもんだ。喧嘩なら喧嘩、泥坊なら泥坊とな」「そりゃ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・彼の通る足下では木曾川の水が白く泡を噛んで、吠えていた。「チェッ! やり切れねえなあ、嬶は又腹を膨らかしやがったし、……」彼はウヨウヨしている子供のことや、又此寒さを目がけて産れる子供のことや、滅茶苦茶に産む嬶の事を考えると、全くがっか・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・ 彼等は、倉庫から、水火夫室へ上った。「ピークは、病人の入る処じゃねえや」「ピークにゃ、船長だけが住めるんだ」 彼等は、足下から湧いて来る、泥のような呻き声に苛まれた。そして、日一日と病人は殖えた。 多くもない労働者が、・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・見下せば千仭の絶壁鳥の音も聞こえず、足下に連なる山また山南濃州に向て走る、とでもいいそうなこの壮快な景色の中を、馬一匹ヒョクリヒョクリと歩んでいる、余は馬上にあって口を紫にしているなどは、実に愉快でたまらなかった。茱萸はとうとう尽きてしまっ・・・ 正岡子規 「くだもの」
出典:青空文庫