・・・武具を担ったり、足弱を扶けたりしている若党草履取を加えても、一行の人数は、漸く十人にすぎない。それが、とり乱した気色もなく、つれ立って、門を出た。 延享四年三月の末である。門の外では、生暖い風が、桜の花と砂埃とを、一つに武者窓へふきつけ・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・それでそんなとき――ことに食事のときなどは、彼らの足弱がかえって迷惑になった。食膳のものへとまりに来るときは追う箸をことさら緩っくり動かさなくてはならない。さもないと箸の先で汚ならしくも潰れてしまわないとも限らないのである。しかしそれでもま・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・そうして第八日第九日目を十分に休養した後に最後の第十日目に一気に頂上まで登る、という、こういうプランで遂行すれば、自分のような足弱でも大丈夫登れるであろう。 こんなことをいいながら星野の宿へ帰って寝た。ところがその翌日は両方の大腿の筋肉・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
出典:青空文庫