・・・ トウン――と、足拍子を踏むと、膝を敷き、落した肩を左から片膚脱いだ、淡紅の薄い肌襦袢に膚が透く。眉をひらき、瞳を澄まして、向直って、「幹次郎さん。」「覚悟があります。」 つれに対すると、客に会釈と、一度に、左右へ言を切って・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・律動的な音は子供でも野蛮人でも自然に踊り出させるのであるが、無声無伴楽映画のかなり律動的な場面を見ても、訓練されない観客はなかなか足拍子手拍子をとるような気分にはならないのである。それで、発声映画において視覚のリズムと照応した物音の律動的駆・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 土人が二人、甲板で手拍子足拍子をとって踊った。土人の中には大きな石鹸のような格好をした琥珀を二つ、布切れに貫ぬいたのを首にかけたのがいた。やはり土人の巡査が、赤帽を着て足にはサンダルをはき、鞭をもって甲板に押し上がろうとする商人を制し・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 音楽の最も簡単なものを取ってみると、それは日蓮宗の太鼓や野蛮人の手拍子足拍子のようなもので、これは同一な音の律動的な進行に過ぎない。これよりもう少し進歩したものになると互いに音程のちがった若干種類の音が使われるようになって、そこにいわ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ じいっと眼をつぶると、レースのたっぷりついた短かい白い着物を着て、肩まで、丁寧にした巻毛をたれて、ムクムクした足で踊る様に足拍子を取って、私に手を引かれて歩く様子が、あざやかに、目に浮いて来る。 心の立ち勝った妹を助手として持つと・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・ ニーナは、ほれぼれするような二人の踊りっぷりを見ているうちに、我知らず自分もまだ春の遠い三月の雪の上で楽しい婦人デーの足拍子をとった。―― 夜 小さい鏡が水道栓の横の柱にかかっている。 ニーナは、素直・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・二人の女は寝台に並び、足拍子を踏みつつ、つよく情熱的に肩を揺って手をうった。 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫