・・・ 相互に真実な愛もなく、一方は無智による無我夢中、一方は醜劣な獣心の跳梁にまかせての性的交渉が結ばれたとしたら、そして、その百鬼夜行の雰囲気が伝染したとしたら、言葉で云えない惨めさです。とがめ、責める先に暗澹とした心持になります。 ・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・に到って、女の俗的才覚、葛藤は複雑な女同士の心理的な交錯に達して、妻のお延と吉川夫人が津田をめぐって、跳梁している。箱根の温泉宿で、これら二人の女に対蹠する気質の清子が現れたところで、私たちは作者の死とともに作品の発展と完結とを奪われたので・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 平和のためという言葉が、日本語では独占資本の跳梁という意味だったり、世界平和の砦ということがファシズムの走り小僧という意味であってはならない。民主日本ということが、隷属日本であってはならないように。 日本の母性よ、ひろがれ。 ・・・ 宮本百合子 「わたしたちは平和を手離さない」
・・・……メフィストを跳梁させてはいけない。しかしメフィストのゆえに苦しむのはよいことだ。メフィストがあまりに早く離れ去らなかったことは、喜ばなくてはいけないだろう。メフィストのいることも私にはよい刺激になる。ショオのメフィストのようにならない限・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫