・・・俺は急に踊るときのような恰好をして――走り出した。看守が高いところから、俺の方を見た。看守の眼を盗みながら、どの位の用意と時間をかけて、それを作ったのだろう。その一つ一つの動作をしている同志の気持が、そのまゝ俺に来るのだ。 同志は何処に・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・また同じ映画でダンス場における踊る主人公とこれをねらう悪漢との交互的律動的モンタージュもこれと全く同様である。これは二つの画面の接触作用によって観客の心に生ずる反応作用をその自然のリズムに従って誘導して行くのである。それでこのモンタージュの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・平たく言えばわれわれが自然に踊り回ると同じリズムの音楽でなければ踊る気にもなれず、また踊ろうにも踊られぬわけである。「パリの屋根の下」における律動的要素の著しい場面をあげると、たとえば二度目にアルベールが舗道で前とはちがった第二の歌を歌・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ せんたく屋の場面では物干し場の綱につるしたせんたく物のシャツやパジャマが女を相手に踊るという趣向がある。少しふざけ過ぎたようであまり愉快なものではないが、しかし、これなども映画で見ればこそ、それほどの悪趣味には感ぜられないで、一種のフ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ ジャヴァの影人形の実演はまだ見たことがないが、その効果にはおのずからこの田舎大工の原始的な影人形のそれと似通った点がありそうに思われる。踊る影絵はそれ自身が目的ではなくて、それによって暗示される幻想の世界への案内者をつとめるのであろう・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
フィッシンガー作「踊る線条」と題するよほど変わった映画の試写をするからぜひ見に来ないかとI氏から勧められるままに多少の好奇心に促されて見に行った。プログラムを見ると、第五番「アメリカのフォクストロット」。第八番、デューカー・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・「越後獅子は誰が踊るのや」「長三郎に魁車がつきあうのやけれど、すいた水仙のところなんか、何だか変なもんや。私いくつ時分だったか、一本歯をはいて、ここの板敷を毎日毎日布を晒らしてあるいていたもんや」お絹はそう言って、銚子にごぽごぽ酒を・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ ジャズを踊る踊子は戦争前には腰と乳房とを隠していたのであるが、モデルが出るようになってから、それも出来得るかぎり隠す部分の少いように仕立てたものを附けるので、後や横を向いた時には真裸体のように見えることがある。昨年正月から二月を過ぎ三・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・津軽海峡、トラピスト、函館、五稜郭、えぞ富士、白樺、小樽、札幌の大学、麦酒会社、博物館、デンマーク人の農場、苫小牧、白老のアイヌ部落、室蘭、ああ僕は数えただけで胸が踊る。五時間目には菊池先生がうちへ宛てた手紙を渡して、またいろいろ話され・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ うずのしゅげは光ってまるで踊るようにふらふらして叫びました。「さよなら、ひばりさん、さよなら、みなさん。お日さん、ありがとうございました」 そしてちょうど星が砕けて散るときのように、からだがばらばらになって一本ずつの銀毛はまっ・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
出典:青空文庫