・・・は、はるかに、清新に、戦争と状景が躍動して、恐ろしく深く印象に刻みつけられる。日清戦争に際して、背後の労働者階級と貧農がどんな風であったかは、この「愛弟通信」から求められ得ないが、国際的な関係の現れとしての北支那海に於ける英仏独露の軍艦の浮・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・テハ内村鑑三氏、芸術家トシテハ岡倉天心氏、教育家トシテハ井上哲次郎氏、以上三氏ノ他ノ文章ハ、文章ニ似テ文章ニアラザルモノトシテ、モッパラ洋書ニ親シミツツアルモ、最近、貴殿ノ文章発見シ、世界ニ類ナキ銀鱗躍動、マコトニ間一髪、アヤウク、ハカナキ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・いわゆる案内記の無味乾燥なのに反してすぐれた文学者の自由な紀行文やあるいは鋭い科学者のまとまらない観察記は、それがいかに狭い範囲の題材に限られていても、その中に躍動している生きた体験から流露するあるものは、直接に読者の胸にしみ込む、そしてた・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・すると、過去何百年来歌舞伎や講談やの因襲的教条によって確保されて来た立ち回りというものに対する一般観客の内部に自然に進行するところのリズムがまさしくスクリーンの上に躍動するために、それによって観客の心の波は共鳴しつつ高鳴りし、そうして彼らの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・暁天の白露を帯びたこの花のほんとうの生きた姿が実に言葉どおり紙面に躍動していたのである。 ことしの二科会の洋画展覧会を見ても「天然」を描いた絵はほとんど見つからなかった。昔の絵かきは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・暁天の白露を帯びたこの花の本当の生きた姿が実に言葉通り紙面に躍動していたのである。 今年の二科会の洋画展覧会を見ても「天然」を描いた絵はほとんど見付からなかった。昔の絵描きは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以上に卓越・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・前世紀の中ごろあたりの西洋といえば想像されるような特別な世界が、この方四五寸の彩色美しい絵の中に躍動しているのである。この小さな菓子箱のふたを通してのぞいた珍しい世界がどんなに美しくなつかしいものであったか、ずっと晩年にほんとうの西洋へ行っ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・材料は割合に平凡でも生け方で花が生動するように少しの言葉のはたらきで句は俄然として躍動する。たとえば江上の杜鵑というありふれた取り合わせでも、その句をはたらかせるために芭蕉が再三の推敲洗練を重ねたことが伝えられている。この有名な句でもこれを・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ それが今、声帯は躍動し、鼓膜は裂けるばかりに、同志の言葉に震え騒いでいる。 ――この上に、無限に高い空と、突っかかって来そうな壁の代りに、屋根や木々や、野原やの――遙なる視野――があればなあ、と私は淋しい気持になった。 陰鬱の・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・自然の様式化と、人物の、言葉すくない、然し実に躍動している配置とは旋律的な調和を保っている。ここには、自然の好きな人間の感覚それにもまして人間の生活、種々様々な人間の動きということが面白くて、気にも入って観ている人間の観かた、入りこみが流露・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
出典:青空文庫