・・・ と女房は暗い納戸で、母衣蚊帳の前で身動ぎした。「おっと、」 奴は縁に飛びついたが、「ああ、跣足だ姉さん。」 と脛をもじもじ。「可よ、お上りよ。」「だって、姉さんは綺麗ずきだからな。」「構わないよ、ねえ、」・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・と、呼吸をひいて答えた紫玉の、身動ぎに、帯がキと擦れて鳴ったほど、深く身に響いて聞いたのである。「癩坊主が、ねだり言を肯うて、千金の釵を棄てられた。その心操に感じて、些細ながら、礼心に密と内証の事を申す。貴女、雨乞をなさるが可い。――天・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ この身動ぎに、七輪の慈姑が転げて、コンと向うへ飛んだ。一個は、こげ目が紫立って、蛙の人魂のように暗い土間に尾さえ曳く。 しばらくすると、息つぎの麦酒に、色を直して、お町が蛙の人魂の方を自分で食べ、至極尋常なのは、皮を剥がして、おじ・・・ 泉鏡花 「古狢」
出典:青空文庫