・・・あなたは、からだも、まだ全快じゃないのだし、僕が、責任を以て、あなたの身柄を引き受けました。」「すみません。」ふたたび、消え入るようにわびを言った。「いいえ。僕のことは、どうでもいいんだけど、」青年は、あれこれ言っているうちに、この・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・一 教育の進歩と共に婦人が身柄にあるまじきことを饒舌り、甚だしきは奇怪千万なる語を用いて平気なるは、浅見自から知らざるの罪にして唯憐む可きのみ。其原因様々なる中にも、少小の時より教育の方針を誤りて自尊自重の徳義を軽んじ、万有自然の数理を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 法外な値だとは知りながら、すっかり勝手の違った東京の中央で、大きな迷子になる事も辛かったし、十銭二十銭の事に、けちけちする様に思われたくないと云う身柄にない見えもあった。 広い通りや、狭い通りを抜けて、走る電車の前を突切る早業に、・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・刑事訴訟法二一八条二項に――容疑者の身柄を拘束した場合にのみ、強制的に指紋を採ることができる、とある。したがって、指紋と犯罪の容疑とは密着したものである。泡盛によっぱらって、留置場のタタキの上で一晩中あばれていただけの者が、警察にとまったか・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ 美くしいと云う中に謙遜な様子をもってきりょうの良くて心のすなおな身柄のいい処女の様な心を持って居るに違いない。 一目見たばっかりで紅葉より私はすきになった。 五月に葉が生れかわると云う事やつつましげな輝きや、やたらに大きくのっ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
出典:青空文庫