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・・・――荷車のあとには芽ぐんでも、自動車の轍の下には生えまいから、いまは車前草さえ直ぐには見ようたって間に合わない。 で、何処でも、あの、珊瑚を木乃伊にしたような、ごんごんごまは見当らなかった。――ないものねだりで、なお欲い、歩行くうちに汗・・・
泉鏡花
「二、三羽――十二、三羽」
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・・・そこへ往かんとて菅笠いただき草鞋はきて出でたつ。車前草おい重りたる細径を下りゆきて、土橋ある処に至る。これ魚栖めりという流なり。苔を被ぶりたる大石乱立したる間を、水は潜りぬけて流れおつ。足いと長き蜘蛛、ぬれたる巌の間をわたれり、日暮るる頃ま・・・
森鴎外
「みちの記」