・・・煽るように車台が動いたり、土工の袢天の裾がひらついたり、細い線路がしなったり――良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたいと思う事がある。せめては一度でも土工と一しょに、トロッコへ乗りたいと思う事もある。トロッコは村外れの平地へ来ると、・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・で、その、ちょっとあらかじめ御諒解を得ておきたいのですが、お客様が小人数で、車台が透いております場合は、途中、田舎道、あるいは農家から、便宜上、その同乗を求めらるる客人がありますと、御迷惑を願う事になっているのでありますが。」「ははあ、・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・馬車使は車台へあがりました。「おいおい、ちょっとまった。」と、肉屋はまっ青になって、馬のくつわを引ッつかみながら、巡査に向って、「もしもし、私んとこの犬を二ひきとも出して下さい。何という乱暴なことをするんだ。」と喰ってかかりました。・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・牛込に来ると、ほとんど車台の外に押し出されそうになった。かれは真鍮の棒につかまって、しかも眼を令嬢の姿から離さず、うっとりとしてみずからわれを忘れるというふうであったが、市谷に来た時、また五、六の乗客があったので、押しつけて押しかえしてはい・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・鉄路が悪かったのか車台の安定が悪かったのか、車は前後におじぎをするように揺れながら進行する。車掌が豆腐屋のような角笛を吹いていたように思うが、それはガタ馬車の記憶が混同しているのかもしれない。実際はベルであったかもしれない。しかし角笛であっ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・座席に腰かけた人の右手にハンドルがあってそれをぐるぐる回すとチェーンギアーで車台の下のほうの仕掛けがどうにかなるようにできているらしい。たぶん座乗者が勝手に進行の方向を変えるための舵のようなものらしい。 座席に腰かけている人はパナマ帽に・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・古い車台を天井にして、大きい導管二つを左右の壁にした穴である。 雪を振り落してから、一本腕はぼろぼろになった上着と、だぶだぶして体に合わない胴着との控鈕をはずした。その下には襦袢の代りに、よごれたトリコオのジャケツを着込んでいる。控鈕を・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・ 列車車掌の室は各車台の隅にある。サモワールがある。ロシアのひどく炭酸ガスを出す木炭の入った小箱がある。柵があって中に台つきコップ、匙などしまってある。車掌は旅客に茶を出す。小型変電機もある。壁に車内備付品目録がはってあるのを見つけた。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ こういう社会全体との関係で起っている事柄について、私たちが、今何を考えたからと云って、急に省線の車台をふやすことは出来ません。同時に、其だからと云って、考えずにいてよいかと云えば、其は間違いです。よしんば、私たちに、すぐ車台をふやせな・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・しかも最後の車台が通りすぎようとしたとき 一人のカーキ色服の男が、最後尾の棒につかまって雨にぬれ乍ら外につら下っているのが目にとまった。○河村の家ではきょう板じきに石臼を出して粉をひいている。○きのうは鍛冶屋の仕事仕度・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
出典:青空文庫