・・・ 日本精神という四字が過去十数年間、その独断と軍国主義的な狂言で、日本の精神の自然にのびてゆく道をさえぎっていた罪過ははかりしれないほどふかい。作家横光利一の文学の破滅と人間悲劇の軸は、彼の理性、感覚が戦時的な「日本的なもの」にひきずら・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・過去の日本の封建性、軍国主義は、日本のヒューマニティーを封鎖し、破壊し、生命そのものをさえ、その人のものとさせなかった。ヒューマニティーの奪還、生命に蒙った脅迫への復讐として、あらゆる破滅の瞬間にも自身のものとして確認された肉体によって、現・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・これは、吉村隊の惨虐を筆頭として、それに類する数々の軍国主義教育の荒々しさ、殺戮性への抗議として読者の心にアッピールした。平気でバサリとやる馘首も、惨澹たる生存威嚇であるという事実にまで思い及んで。―― ところが、四月号の『中央公論』に・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・けれども、日本の教育方針が改められて、軍国主義の教育をすて、国民の一人一人が社会を運営してゆく能力をもつために民主的な教育が要求されてから、母も父と並んで、子供の未来に重大な関係をもつものであることがはっきりして来ました。この頃、小学校に出・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・天皇の名によって行われていたスパイと憲兵の絶対的な軍国主義権力が崩れて三年四年たってみると、情報局の報道と大本営発表でかためられた偽りの壁と封印の跡が、あたらしい回想と、そこに湧く批判の真実に消されはじめた。一九四五年の秋「君たちは話すこと・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・戦争挑発と日本の軍国主義の再燃にたいして青年と婦人とは胸にいっぱいの抗議をいだいている。ラジオはその時の政府によって官僚統制され、また天降りの独裁放送を行うことを思えば、政府の放送事業法案に対する反対はきわめて強い現実的な根拠をもっている。・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・と、鳴る太鼓の音を空にきき流しつつ、軍国調モードを、どんなにシークにステープルファイバアからつくり出そうかと思案しているのが、今日の若い女のその日ぐらしの姿であるとしたら、若い婦人たちの誰が、その愚劣な一人として自分を描かれることに承知しよ・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
「広場」は、一九四〇年にかかれた。同じ頃の短篇「おもかげ」と作者の内面では連作の意味をもっていた。当時軍国主義日本の文化統制はますますきびしくなってきていて、人間の理性や自然な感覚から生れる文学は、抹殺されつつあった。日本の・・・ 宮本百合子 「作者のことば(『現代日本文学選集』第八巻)」
・・・『戦争文学』という雑誌が発刊されたり、小波の「軍国女気質」泉鏡花「満洲道成寺」という珍妙な小説が出たり、そういう世間の空気のなかで、出版界は、藤村の書く地味な小説などに興味を抱かない時代だというのが、藤村のその時代への感覚の一面であったのだ・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・今までの軍国主義者や愛国狂は顔を蒼くしてすみの方へ引き込んで行く。その代わり、英、独、仏、露、敵味方各国の人民はお互いに暖かい情をもって手を握り合い、お互いの民族の優れた性質や高貴な文化を賞讃し合う。そうしてこの恐ろしい悲惨な戦争を起こした・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫