・・・けれどもあの戦争中学者だの大臣だのがみな軍部の力に圧されて、こびることしかしなかったとき、また一般の人々が軍隊のすることは何でも無理を通していた時代に、若い女学生たちが、真直なこころで正しくないと思ったことを、どこまでも正しくないこととして・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・このでんで、『主婦之友』は戦争中は半分ほのめかされたことさえまるままの一つとしてのみこんで婦人を戦争にかりたて、軍部御用に精励した、あのころのことも思い出された。 アメリカに、いくつかの世論調査機関がある。なかでも、ギャラップ博士の米国・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・その沈潜するこころもちをまぎらすように、わやわやとした声でかつて軍部に扈従して政治や文学を語った作家が、こんどは、軍事基地施設を拒むことは出来ないという吉田首相をとりまいて文学・政治を談じている。 これらの現実にかかわらず、地球は、今日・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・ スローガンだけあるが、生産を国家管理にするといっても、それはどういう国家がどう生産を管理するのであるのか、階級なき新日本と云っても、犬養を殺し、軍部が暴威を振って階級が無くなるものでもなし、ファシズムの信じ難いほどの非科学性を暴露した・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・未組織の文学愛好者、特に婦人の間に多くの読者をもっている三上於菟吉、直木三十五などというブルジョア作家たちは手をつないで軍部の雇作家になった。 われわれ婦人大衆はブルジョア地主の利益を守るためにだけされる帝国主義侵略戦争には絶対反対だ。・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・すべての社会現象の全体の関係を人民生活の前に開いてみせず、任意な現象だけをきりとって、さまざまの粉飾でしめした方法こそ、天皇の神聖をかざした軍部のやりかたそのものであった。条理ある社会関係の総体の見とおしを許さず、きれぎれの認識で混乱させた・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・戦時中、大軍需会社の下うけをやっていて、小金をためたような小企業家が、さて、敗戦と同時に、何か別途に金をふやす方法をさがした。軍部関係で闇に流れた莫大な紙があった。戦後、続出した新興出版事業者は、ほとんど例外なしに、この敗戦おきみやげたる紙・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ 日本のファシズムが露骨に言論統制をはじめ、文化抑制を強行し、文学者の存在権は文学上の業績ではなくて軍御用の程度によって保障されるようになって行ったとき、ファシストでない大多数の人々は、もちろんその軍部の乱暴を感じていた。無知、野蛮な専横・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・あのように厳しく、そこから逃げ出せば法律で以て罰せられ、牢屋にまで送られた徴用の勤め先が軍部への思惑だけで、収容力もないほどどっさり徴用工の頭数だけを揃えていることや、そのために宿舎、食糧、勤労そのものさえ、まともに運営されて行かず、日々が・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・世界の声のきける短波のラジオは使用禁止され、ラジオは軍部、情報局のさしずどおり、一九四五年八月のあと、大部分が虚偽であったとわかった大本営発表を叫びつづけていた。母子の愛情、夫婦や愛人同士の愛や希望や計画などは、ほんとに口に出すことの許され・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
出典:青空文庫