・・・のような陳列室を見渡していたが、やがて眼を私の方に転じると、沈んだ声でこう語り出した。「その友だちと云うのは、三浦直樹と云う男で、私が仏蘭西から帰って来る船の中で、偶然近づきになったのです。年は私と同じ二十五でしたが、あの芳年の菊五郎の・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・少なくも子供たちに対する誘惑を無害な方面に転じる事になるだろうし、おとなに対しても三越というものの観念に一つの新しい道徳的な隈取りを与えはしまいか。生き物だから飼っておくのはめんどうだろうが。「三越に大概な物はあるが、日本刀とピストルが・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ 自分は重く、声高く笑い、自分には興味のない犬だの、小さい妹の稽古だののことに話頭を転じる。母親がいらぬ心痛から妙な計画でも思いついては困ると、自分は留置場の内のことについては、何一つ云わないようにしているのであった。 話しながら自・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫