・・・しかもその私憤たるや、己の無知と軽卒とから猿に利益を占められたのを忌々しがっただけではないか? 優勝劣敗の世の中にこう云う私憤を洩らすとすれば、愚者にあらずんば狂者である。――と云う非難が多かったらしい。現に商業会議所会頭某男爵のごときは大・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・これについては軽卒な批判を避けなければならない。 しかしここで私の考えてみたいと思う事は、そういう大多数の行為の是非の問題ではなくて、そういう一般乗客の傾向から必然の結果として起こる電車混雑の律動に関する科学的あるいは数理的の問題である・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・ 私は軽卒にこの実験を人に強うる気はないが、ともかくもまず自分で試みたいという希望はもっている。しかし現在の旬刊や週刊が依然として日刊と並行して出ている限り、またその編集方法が私の考えているのと同一でないとすると、結局私の考えている思考・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・併しそれが直ちに人生に触れる触れぬの標準となるんなら、大変軽卒のわけじゃないか。引緊った感を起させる、起させぬの別と、人生に触れる、触れぬとの間にゃ大なるギャップが有りゃせんか。私はどうも那様気がするね。触れる云々は形容詞に過ぎんように思う・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・サンスクリットの両音相類似する所から軽卒にもあのような誤りを見たのである。茲に於てか私は前論士の結論を以て前論士に酬える。仏教徒諸君、釈迦を見ならえ、釈迦の相似形となれ、釈迦の諸徳をみなその二万分一、五万分一、或は二十万分一の縮尺に於てこれ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・の中に「生命は我々に与えられている――その理由は知らない――けれども、それを弱からしめんためでもなく、また軽卒に振り捨ててしまうためでもないことは、確である」という言葉のあるのをお思い出せなさいますか。 ほんとになぜ私は命を授け・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・顔形、それは老若の違いこそはあるが、ほとほと前の婦人と瓜二つで……ちと軽卒な判断だが、だからこの二人は多分母子だろう。 二人とも何やら浮かぬ顔色で今までの談話が途切れたような体であッたが、しばらくして老女はきッと思いついた体で傍の匕首を・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫