・・・ ――松村さん、木戸まで急用―― いけ年を仕った、学芸記者が馴れない軽口の逃口上で、帽子を引浚うと、すっとは出られぬ、ぎっしり詰合って飲んでいる、めいめいが席を開き、座を立って退口を譲って通した。――「さ、出よう、遅い遅い。」悪くす・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・こういう瞬間が最もたわいのない軽口とそれに対する爆笑を誘発するに適当なものではないか。とにかく、これも未来の生理学的心理学者の研究題目の一つにはなりそうだと思われた。 そのうちうなぎどんぶりが三人の前に運ばれて食事が始まると同時に今まで・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 跋を見れば、きょうの著者の日々は官舎に暮す小柄な軽口をいう無邪気な若い主婦の暮しである。 あの八月九日の夜、新京から真先に遁走を開始した関東軍とその家族とは、三人の子をつれて徒歩でステーションに向う著者にトラックの砂塵をあびせ、列・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ 何か軽口にじょうだんを云って、「ハハハハハハ」と鼻の先でヘラヘラ笑いをする「きよ」の顔を見ると千世子は、「ヘッ、」と云ってやりたい様に思った。 咲は毎日毎日の事をほんとうに念入りに清に教えて居た。「西洋洗濯から・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
出典:青空文庫