・・・仲よしの小鳥が嘴を接す時、歯の生際の嬰児が、軽焼をカリリと噛む時、耳を澄すと、ふとこんな音がするかと思う、――話は違うが、として、(色白き児の苺枕の草紙は憎い事を言った。 わびしかるべき茎だちの浸しもの、わけぎのぬたも蒔絵の中。惣菜もの・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・一 淡島氏の祖――馬喰町の軽焼屋 椿岳及び寒月が淡島と名乗るは維新の新政に方って町人もまた苗字を戸籍に登録した時、屋号の淡島屋が世間に通りがイイというので淡島と改称したので、本姓は服部であった。かつ椿岳は維新の時、事実上淡島・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 小さかった白い餅のようなものは、もりもりもりもりと拡って、箸でやっと持つ位大きく扁平な軽焼になった。「さ、ちっと冷してから食うと美味いよ。芳ばしくて。――自分で焼いて見なさい」 一太は片手で焙りながら、片手で軽焼を食った。とて・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 父が外遊中、家計はひどくつましくて、私たちのおやつは、池の端の何とかいう店の軽焼や、小さい円形ビスケット二十個。或はおにぎりで、上野の動物園にゆくとき、いつもその前のおひるはお握りだった。母はずっとあとになってからでも、小さい子供たち・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
出典:青空文庫