・・・そしてその輝かしい微苦笑には、本来の素質に鍛錬を加えた、大いなる才人の強気しか見えない。更に又杯盤狼藉の間に、従容迫らない態度などは何とはなしに心憎いものがある。いつも人生を薔薇色の光りに仄めかそうとする浪曼主義。その誘惑を意識しつつ、しか・・・ 芥川竜之介 「久米正雄」
・・・我我も慰めを求める為には何万億哩の天上へ、――宇宙の夜に懸った第二の地球へ輝かしい夢を移さなければならぬ。 庸才 庸才の作品は大作にもせよ、必ず窓のない部屋に似ている。人生の展望は少しも利かない。 機智・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
ある輝かしい日のことです。父親は、子供の手を引きながら道を歩いていました。 まだ昨日降った雨の水が、ところどころ地のくぼみにたまっていました。その水の面にも、日の光は美しく照らして輝いていました。 子供は、その水たまりをのぞき・・・ 小川未明 「幾年もたった後」
梅雨のうちに、花という花はたいていちってしまって、雨が上がると、いよいよ輝かしい夏がくるのであります。 ちょうどその季節でありました。遠い、あちらにあたって、カン、カン、カンカラカンノカン、……という磬の音がきこえてきました。・・・ 小川未明 「海ほおずき」
・・・これこそ、真に日本の母性の輝かしい姿なのであります。 望むらくは、すべてのお母さんが、子供のために、犠牲となる覚悟を持ってもらいたいのです。家庭の事情によりては、母親は、常に子供といっしょにいられぬものもありましょう。他に仕事を持ち、働・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・ やがて、夏が過ぎて秋になりました。輝かしい夕暮れ方の空の雲の色も悲しくなって、吹く風が身にしみるころになると、他のつばめは南の国をさして帰りました。 学校の裏の竹やぶが日に日に悲しそうに鳴っています。すると子供は、窓の外をじっとな・・・ 小川未明 「教師と子供」
・・・なんといっても、それが貴くて、輝かしいのだから。」といったことが、愚かしく感じられました。 ある日、りっぱな紳士が令嬢をつれて、この庭園へはいってきました。そして、やがて同じように、しんぱくの前に立って、主人から話をきかされていました。・・・ 小川未明 「しんぱくの話」
・・・『キリスト教の本質』を書いたフォイエルバッハの人間の共同生活態という美しい、人類の輝かしい希望をつなぐ理念を物的の意味に引き下してしまって何の役に立つのであろう。資本主義制度はもとより悪い。道徳的意味においてこれは呪詛されねばならぬ。われわ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・将校は、穴や白樺や、兵卒の幾分輝かしい顔色を意識しつゝ、なお、それ等から離れて、ほかの形而上的な考えを追おうとしている様子が見えた。 小川を渡って、乾草の堆積のかげから、三人の憲兵に追い立てられて、老人がぼつ/\やって来た。頭を垂れ、沈・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ それほど輝かしい人生の門出の、第一夜に、鶴は早くも辱かしめられた。 彼が夕食をとりに寮の食堂へ、ひとあし踏みこむや、わっという寮生たちの異様な喚声を聞いた。彼等の食卓で「鶴」が話題にされていたにちがいないのである。彼はつつましげに・・・ 太宰治 「猿面冠者」
出典:青空文庫