・・・そしてバタ生産に関する農村通信員の面白い批判が掲載されている。バタ工場の支配人を代えろ!バタ工場上ナザロフスキーの支配人ゴルデーエフは生産に従事することを欲していない。工場は無管理状態に君臨されている。工場が燃料に欠乏を感じ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 玄米一石の生産費自作農二五円八七銭 小作農二八円七一銭 現在の農村は事変以来二割近い手不足で甚だ困難している。従って老人、女子、子供は一層農村で大切な労働力となって来た。昨年は一部落当に老人二人婦人一人半子供十人半が平・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・少女だったわたしは、日本の農村というものが、どんなに封建的な土地関係におかれており、また、どんなにその農業の方法がおくれているかということを知らなかった。農民生活のそれらの条件が、一方で益々発展する資本主義の経済機構から板ばさみをうけて、農・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・小説の形をとっているけれども、題材は、ソヴェトの新聞にでていた農村通信の記事だったと記憶する。だから現実に或るコルホーズに起ったエピソードであった。こんにちよみかえすと、小説としてはごく単純だけれども、それぞれの農村でコルホーズがどんな過程・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・ 同じ作者の「樹のない村」は「幼き合唱」の創作態度において感知することのできた作者の「作家」というものについての理解が、作品中にはっきり姿をあらわしている点、特に多くの注意を喚起した。 農村のはてしない収奪と資本主義の高利貸搾取と二・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・氏は示唆的な日本画の手法をもって、麦の収穫に忙がしい農村の光景を写した。その結果が何であるとしても、とにかく氏の描くところには感情がこもっている。画面の上に芸当として並べられた線や色彩ではなくして、氏の心に渦巻くものを画面にさらけ出そうとす・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・わたくしは農村に生まれて、この歌集に歌われているような風物のなかで育ったものであるが、幼いころに心に烙きついたまま忘れるともなしに忘れ去っていたさまざまの情景を、先生の歌によって数限りなく思い出した。たとえば、蓮華草この辺にもとさが・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・ 自分は山近い農村で育ったので、秋には茸狩りが最上の楽しみであった。何歳のころからそれを始めたかは全然記憶がないが、小学校へはいるよりも以前であることだけは確かである。村から二、三町で松や雑木の林が始まり、それが子供にとって非常に広いと・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・地方の農村で育った私でさえそうであったから、東京の山の手で育った連中は、一層そうであったであろう。ちょうどそのころに、文芸ではありのままの現実を描写すると称する自然主義がはやり始めたし、思想の上では個人主義が私たちを捕えた。他人の気を兼ねる・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
・・・ わたくしの子供の時分には、こういう住持や地主が農村の知識階級を代表していた。その後半世紀を経たのであるから、そういう人たちはもう一人も残っていないであろう。たといそういう種族のうちで生き残っている人があるとしても、そういう生活の仕方は・・・ 和辻哲郎 「松風の音」
出典:青空文庫