・・・その頃彼の父は彼に農業の趣味を養うために郷里で豚を飼わせ、その収入を彼の小使銭に充てた。この銭は多くは化学材料を買うために費やされ、ある時は燐で指を焼いた。後年ケルヴィン卿が化学会の晩餐演説でこの事を引合に出し、レーリー卿は十二歳のときに燐・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
政治は人の肉体を制するものにして、教育はその心を養うものなり。ゆえに政治の働は急劇にして、教育の効は緩慢なり。例えば一国に農業を興さんとし商売を盛ならしめんとし、あるいは海国にして航海の術を勉めしめんとするときは、その政府・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・けれどもいまはもう農業が進んでお前たちの家の近くなどでは二百十日のころになど花の咲いている稲なんか一本もないだろう、大抵もう柔らかな実になってるんだ。早い稲はもうよほど硬くさえなってるよ、僕らがかけあるいて少し位倒れたってそんなにひどくとり・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・「この辺ではもちろん農業はいたしますけれども大ていひとりでにいいものができるような約束になって居ります。農業だってそんなに骨は折れはしません。たいてい自分の望む種子さえ播けばひとりでにどんどんできます。米だってパシフィック辺のように殻も・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・そして新聞で、あのときの出来事は、肥料の入れようをまちがって教えた農業技師が、オリザの倒れたのをみんな火山局のせいにして、ごまかしていたためだということを読んで、大きな声で一人で笑いました。 その次の日の午後、病院の小使がはいって来て、・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・それから今度は菜食だからって一向安心にならない。農業の方では害虫の学問があって薬をかけたり焼いたり潰したりして虫を殺すことを考えている。百姓はみんなそれをやる。鯨を食べるならば一疋を一万人でも食べられ、又その為に百万疋の鰯を助けることになる・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・とばけもの世界の農業の歌を歌いながら畑を耕したり種子を蒔いたりするようなまねをはじめました。たちまち床からベランベランベランと大きな緑色のばけもの麦の木が生え出して見る間に立派な茶色の穂を出し小さな白い花をつけました。舞台は燃えるよ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・「飽きることを知らない農村の女子が農業精神で」その精密加工に成功し「農村の子女が最も適当しているというのである」としているのである。 フォードが一品一工場としたやりかたで生産工程の組織では全国的にフォード化し分業化しつつ、しかも、村を決・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・わきの丘の上に青と赤、ペンキの色あざやかな農業機械が幾台も並んでいる。古い土地がいかに新しい土地となりつつあるか。ソヴェトが五ヵ年計画で四〇〇パーセント増そうとしている農業機械のこれは現実的な見本である。 列車の窓ガラスが緑になってしま・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 約四十八パアセントが農業に従っている。 そのうち女性は何割だろう。 四十三パアセント強約六百三十二万人は女子及び子供である。そして、昭和十一年の調査によると、小学校を卒業した子供たちの就業する先は農業が第一位を占めていて、男子・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
出典:青空文庫