・・・誌を持ち込んで、ジャン・ポール・サルトルの義眼めいた顔の近影を眺めている姿は、一体いかなる不逞なドラ猫に見えるであろうか。 ある大衆作家は「新婚ドライブ競争」というような題の小説を書くほどの神経の逞しさを持っていながら、座談会に出席する・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・いつか鳩に就いての随筆を、地方の新聞に発表して、それに次兄の近影も掲載されて在りましたがその時、どうだ、この写真で見ると、おれも、ちょっとした文士だね、吉井勇に似ているね、と冗談に威張って見せました。顔も、左団次みたいな、立派な顔をしていま・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・が新潮社から出版せられて、私はその頃もう高等学校にはいっていたろうか、何でも夏休みで、私は故郷の生家でそれを読み、また、その短篇集の巻頭の著者近影に依って、井伏さんの渋くてこわくて、にこりともしない風貌にはじめて接し、やはり私のかねて思いは・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
出典:青空文庫