・・・「所縁にも、無縁にも、お爺さん、少し墓らしい形の見えるのは、近間では、これ一つじゃあないか――それに、近い頃、参詣があったと見える、この線香の包紙のほぐれて残ったのを、草の中に覗いたものは、一つ家の灯のように、誰だって、これを見当に辿り・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・すぐに近間の山寺へ――浜方一同から預ける事にしました。が、三日も経たないのに、寺から世話人に返して来ました。預った夜から、いままでに覚えない、凄じい鼠の荒れ方で、何と、昼も騒ぐ。……それが皆その像を狙うので、人手は足りず、お守をしかねると言・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ 一体、外套氏が、この際、いまの鹿落の白い手を言出したのは、決して怪談がかりに娘を怯かすつもりのものではなかった。近間ではあるし、ここを出たら、それこそ、ちちろ鳴く虫が糸を繰る音に紛れる、その椎樹――(釣瓶(小豆などいう怪ものは伝統・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・すると、四方から小鳥がそれを聞きつけ集まってきて、近間の木の枝に止まってその笛を自分らの友だちだと思っていっしょになってさえずっていました。この有り様を見ると力蔵はすぐに良吉の持っている笛が欲しくなりました。「君にオルゴールを貸してあげ・・・ 小川未明 「星の世界から」
出典:青空文庫