・・・自分の内と外とのあらゆる生活要素のあらゆる角度からの接触のあらゆる刻々の移り動きが、私たちの幸福感を誘い出し、また追放するのだと思う。そして、私たちの生活の諸要素は、誰しもよく知っているとおりめぐりあった社会の歴史として時代性をもっているし・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・現地の軍当局の信じられないほどの無責任、病兵を餓死にゆだねて追放するおそろしい人命放棄についても記録されはじめた。大岡昇平氏の「俘虜記」そのほかの作品に見られる。ソヴェト同盟に捕虜生活をした人々のなかから、「闘う捕虜」「ソ同盟をかく見る」「・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・日本出版協会は、日本民主化のために有益な出版を鼓舞しようとするたてまえから、さる六月エロ・グロ出版物追放の仕事に着手した。この仕事は、一応すべての人の常識にうけ入れられる性質をもっている。エロ・グロ出版物の数が減ってより良書が一冊でも多く売・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・しかも、今日を明日へ押しすすめるべき未熟な、酸苦くはあるがそれが核であることだけは確であった世界観のよりどころを、自分の手で文学から追放してしまった人々は、自嘲的になった自己の内部に十九世紀のリアリストたちの情熱すら抱き得ない有様である。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 自然主義文学の動きは、硯友社的美文で造り上げられた現実を文学から追放して、もっとむき出しの、教養以前或は七重の教養を八重に引剥いだその底の人間性と真正面から取組もうとした、一応の教養を否定する教養に立っておこったわけであった。 と・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・そのこころに通じるものがあるようで、火野葦平、林房雄、今日出海、上田広、岩田豊雄など今回戦争協力による追放から解除された諸氏に共通な感懐でもあろうか。 東京新聞にのった火野の文章のどこの行をさがしても、「昔にかえった」出版界の事情「老舗・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・、二十代の全国の学生は、同じく「政治的思想的立場を理由にして」追放されようとしている教授を擁護して、日本の理性のためにたたかっていた。そして二十数名の文学者は、日本の思想と言論の自由のためにアッピールした。数十年間大学の仏文科教授であった辰・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 畑十太夫は追放せられた。竹内数馬の兄八兵衛は私に討手に加わりながら、弟の討死の場所に居合わせなかったので、閉門を仰せつけられた。また馬廻りの子で近習を勤めていた某は、阿部の屋敷に近く住まっていたので、「火の用心をいたせ」と言って当番を・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・次いで元文四年三月二日に、「京都において大嘗会御執行相成り候てより日限も相立たざる儀につき、太郎兵衛事、死罪御赦免仰せいだされ、大阪北、南組、天満の三口御構の上追放」ということになった。桂屋の家族は、再び西奉行所に呼び出されて、父に別れを告・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・ 秀吉がキリシタン追放令を発布してから六年後の文禄二年に、当時五十二歳であった家康は、藤原惺窩を呼んで『貞観政要』の講義をきいた。五十八歳の秀吉が征明の計画で手を焼いているのを静かにながめながら、家康は、馬上をもって天下を治め得ざるゆえ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫