・・・ 折角新しい社会関係で労働に従事し、新しい生活で鍛えられつつある若者が、芸術と生産の間にブルジョア文化がもっていたような分裂へ逆転して、既成作家が揚棄しようとしている欠点を自分達の文学修業の出発点としたりするようなことがあれば、それはと・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・日本の子供はひんぱんにそうやって封建時代へ逆転させられることを何とも感じないんでしょうか。まだ……。 二階の読書室の赤布で飾った本台の前で、十一二歳の少年少女数人がさかんに本をあさっている。 ――アニュータ! 別なの下さい。 ―・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・婦人代議士がいうように耐乏生活でこの歴史の逆転はくつがえせません。燃料がたっぷりあるように、ガスと電気が使えるように、食糧事情がよくなるように、社会のしくみが動かされなければ、現実の婦人の封建性の条件がなくなりません。民法が戸主の権利を縮小・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・なる諸相の逆転として見ようとするこの見解に対して、所謂大衆向きであっても而も社会の現実の必然を必然として客観的に描く「実録文学」という提案をしたのは『文学案内』による貴司山治氏であった。多難なリアリズムの問題、文学の真の意味での大衆性の課題・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 切角人格的に尊敬し得る異性に出会い、まことに愛されもし、漸々遅蒔きながら人生が実りかけようとすると、今度は予想外の死で、万事は、動揺と不安とへの逆転になってしまいました。 彼女にとっては継子である嗣子夫妻との間に理解を欠き、亡夫の・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・ 日本の真の民主化のために、保守反動の旧勢力を代表する婦人代議士までをこめた一握りの婦人を鼓舞するために、三十もの労働組合の婦人部を動員するなどという方法は、日本の民主化の歴史の逆転である。救国民主連盟の提案は、大衆運動部の組織によって・・・ 宮本百合子 「三つの民主主義」
・・・かえって事態は、まるで逆転してしまいました。私は思わずはっとし、まるで異なった角度から、驚いて我というものを眺めなおし得たのです。 私は更生といってよいほどの溌溂さを以て、自己の内的配置の移動を覚えました。永い間忘られていた純粋な歓喜が・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・そして、厳しく自分を叱責する眼付きで端座し、間髪を入れぬ迅さで再び静まりを逆転させた。見ていて梶は、鮮かな高田の手腕に必死の作業があったと思った。襯衣一枚の栖方はたちまち躍るように愉しげだった。 その夜は梶と高田と栖方の三人が技師の家の・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫