・・・私は多忙な身だから、ほかの人の作を一々通読する暇がない。たてこんで来ると、つい読み損って、それぎりにする事もあるが、できるだけは参考のため、研究のため、あるいは興味のため、目を通して見る。ところが年一年と日を経るに従って、みんな面白い。だん・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・よって今、論者諸賢のため全篇通読の便利を計り、これを重刊して一冊子となすという。 明治一六年二月編者識と記すべき法なるを、ある時、林大学頭より出したる受取書に、楷書をもって尋常に米と記しければ、勘定所の俗吏輩、いかでこれを許すべき・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 貴司悦子さんの近著『村の月夜』を贈られ、それを通読して、私は、母である女のひとが自分の文学的な才能を、子供のために活かすことの自然さに打たれるところがあった。「ローラア」「にわとり」「乗合自動車」などは、直接幼い子供の感覚の内に入って・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・を読んだとき、過去のプロレタリア文学運動に対する同氏の評価に私自身の理解と相異したものがあるのを感じたことがあったが、今日「囚われた大地」を通読して、同じ論文で森山氏がその作品を評していた言葉を再び思い起した。「農村のそれぞれの階級層を代表・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・「この書を通読してまず感歎することは、宇宙の創造から一九三三年までの世界の歴史をかかる小冊子に記述しながら、決して無味乾燥な材料の羅列に終らせることなく、これを極めて興味ふかい物語に編みあげ、しかも、その中に烈々たる文化的精神を織りこん・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
この間或る必要から大変おくればせに石坂洋次郎氏の「若い人」上下を通読した。この作品が二三年前非常にひろく読まれたということも、今日石川達三氏の「結婚の生態」がひろく読まれているということと対比してみれば、同じような現象のう・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・ この書を通読すれば、おそらく誰の目にも性質の異なる部分が識別せられるであろうと思う。は高坂弾正の立場で物を言っている部分である。は信玄一代記と山本勘助伝とのからみ合わせで、勘助の子の禅僧が書き残した記録を材料としたであろうと思われる。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫