・・・それがために小学校に入った時には、日本の方が遅れているので、速成の学校に通った。 小さい時には芝居そのほかの諸興行物に出入りすることはほとんどなかったと言っていいくらいで、今の普通の家庭では想像もできないほど頑固であった。男がみだりに笑・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・日本の文化を根本的に革新するには先ず人種を改造するが先決問題であるというが博士の論旨で、人種改良の速成法として欧米人との雑婚を盛んに高調した。K博士の卓説の御利生でもあるまいが、某の大臣の夫人が紅毛碧眼の子を産んだという浮説さえ生じた。・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・例えば『永代蔵』では前記の金餅糖の製法、蘇枋染で本紅染を模する法、弱った鯛を活かす法などがあり、『織留』には懐炉灰の製法、鯛の焼物の速成法、雷除けの方法など、『胸算用』には日蝕で暦を験すこと、油の凍結を防ぐ法など、『桜陰比事』には地下水脈験・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・と上の方に横書きされ、下に「速成ガイド資格準備、速成オリンピック用会話教授」と大書されたわきに、それぞれ赤インクで線がひいてある。二三日前の雨のせいで、赤インクは侘しく流れ滲んでいるのであるが、この自宅英語塾主は、それ程の積極性をこの広告の・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・ 中央の文壇の関心というものも、ちがった地味での変種の速成栽培への興味めいたものであってはなるまいと思う。ジャーナリズムへ吸収される率でだけ、地方に分散する文学の創造力の意味が計られても悲しいことだと思う。文学の将来性への希望として真面・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
出典:青空文庫