・・・という事を、さいしょから、しきりに言っていたが、酔うにしたがって、いよいよ頻繁にそれが連発せられて来た。「お前も、しかし、東京では女でしくじったが」と大声で言って、にやりと笑い、「俺だって、実は、東京時代に、あぶないところまでいった事が・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・を見ると自分を叱るのではないかと怯える卑屈な癖が身についていて、この時も、譫言のように「すみません」を連発しながら寝返りを打って、また眼をつぶる。「叱るのではない。」とその黒衣の男は、不思議な嗄れたる声で言って、「呉王さまのお言いつけだ・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ 私はただやたらに、よかった、よかったを連発し、そうして早速、家の焼跡を見せにつれて行った。「ね、お家が焼けちゃったろう?」「ああ、焼けたね。」と子供は微笑している。「兎さんも、お靴も、小田桐さんのところも、茅野さんのところ・・・ 太宰治 「薄明」
・・・ を連発しながら節子を捜し廻り、茶の間で見つけて滅茶苦茶にぶん殴った。「ごめんなさい、兄さん、ごめん。」節子が告げ口したのではない。父がひとりで、いつのまにやら調べあげていたのだ。「馬鹿にしていやあがる。ちくしょうめ!」引きずり廻し・・・ 太宰治 「花火」
・・・などと、一向にぱっとしない、愚にもつかぬ文句を、それでも多少、得意になって、やはり自身の、ありあまる教養に満足しながら、やたらにその文句を連発してサロンを歩きまわって、サロンの他の客はひとしく、これには閉口するところが、在ったように記憶して・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・という問を連発して論敵をなやましたものだ、という懐古談なのだ。久保万か、小島氏か、一切忘れてしまったけれども、とにかく、ひどくのんびり語っていた。これには、わたくしたち、ほとほと閉口いたしましたもので、というような口調であった。いずくんぞ知・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・十回目あたりからベーアのつけていた注文の時機が到来したと見えて猛烈をきわめた連発的打撃に今までたくわえた全勢力を集注するように見え、ようやく疲れかかったカルネラの頽勢は素人目にもはっきり見られるようになった。 第十一回目のラウンドで、審・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・片手を高く打ち振りながら早口に短い言葉を連発していた。今にも席から飛び出すかと思われたが、そうもしなかった。右の方の席からも騒がしい声が聞こえた。 議長が、それでは唯今の何とかを取消します、というたようであった。すると、また隅々からわあ・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・昔ある大新聞の記者と称する人が現在の筆者をたずねて来て某地の地震についていろいろの奇問を連発したことがある。あまりの奇問ばかりで返答ができないからほとんど黙っていたのであるが、翌日のその新聞を見るとその記者の発した奇問がすべて筆者によって肯・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・そういうとき、いかにも先生らしい凡想を飛び抜けた奇抜な句を連発して、そうして自分でもおかしがってくすくす笑われたこともあった。 先生のお宅へ書生に置いてもらえないかという相談を持ち出したことがある。裏の物置きなら明いているから来てみろと・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
出典:青空文庫