・・・秋、山田君から手紙が来て、小生は呼吸器をわるくしたので、これから一箇年、故郷に於いて静養して来るつもりだ、ついては大隅氏の縁談は貴君にたのむより他は無い、先方の御住所は左記のとおりであるから、よろしく聯絡せよ、という事であった。臆病な私には・・・ 太宰治 「佳日」
・・・きのう、きょう、二日あそんで、それがため、すでに、かの穴蔵の仕事の十指にあまる連絡の線を切断。組織は、ふたたび収拾し能わぬほどの大混乱、火事よりも雷よりも、くらべものにならぬほどの一種凄烈のごったがえし。それらの光景は、私にとって、手にのせ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・田島は、そこへ、一週間にいちどくらい、みなの都合のいいような日に、電話をかけて連絡をして、そうしてどこかで落ち合せ、二人そろって別離の相手の女のところへ向って行進することをキヌ子と約す。 そうして、数日後、二人の行進は、日本橋のあるデパ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・午後五時半と指定されていたのであるが、途中バスの聯絡が悪くて、私は六時すぎに到着した。はきもの係りの青年に、こっそり頼んで玄関傍の小部屋を借り、そこで身なりを調えた。その部屋では、上品な洋服の、青白い顔をした十歳くらいの男の子が、だらし無く・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・甲から乙に移る連絡道路だけでも無限に多数に存する。それらの通路の中には国道もあり間道もあり、また人々によって通い慣れた道と、そうでないのとがある。それで今甲の影像の次に乙の影像を示された観客はその瞬間においてその観客の通い慣れた甲乙間の通路・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・一見なんらの関係もないような事象の間に密接な連絡を見いだし、個々別々の事実を一つの系にまとめるような仕事には想像の力に待つ事ははなはだ多い。また科学者には直感が必要である。古来第一流の科学者が大きな発見をし、すぐれた理論を立てているのは、多・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・の教科書の記事は、人間の社会生活と一糸の連絡もない。しかし、そういうものを読んだことのない小説家と、それを読み深く味わったことのある小説家とではその作品になんらかのちがった面目が現われないわけにはゆかないであろう。熱力学の方則を理解した作者・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・そういう場合に寄り集まった材料が互いに別々な畑から寄せ集められたものである以上各部分の間にはなんらの必然的な連絡はなく、従ってそれらの堆積はやはり単なる素材の堆積であり団塊であるというだけで、結局はその学者なる陶工の旋盤の上に載せられた粘土・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 夕方連絡船に乗る。三千四百トン余のタービン船で、なかなか綺麗で堂々としている。青森市の家屋とは著しい対照である。左舷に五秒ごとに閃光を発する平舘燈台を見る。その前方遥かに七秒、十三秒くらいの間隔で光るのは竜飛岬の燈台に相違ない。強い光・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・順序は矛盾しましたが、広義の教育、殊に、徳育とそれから文学の方面殊に、小説戯曲との関係連絡の状態についてお話致します。日本における教育を昔と今とに区別して相比較するに、昔の教育は、一種の理想を立て、その理想を是非実現しようとする教育である。・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
出典:青空文庫