・・・ 女中はちらりと娘をみたが、さすがに連込み宿らしく、うさん臭そうな眼付きもせず、二階の部屋へ二人を案内した。 鍵の掛る、粗末なダブル寝台のある洋風の部屋だった。 女中は案内すると、すぐ出て行ったが、やがて、お茶と寝巻を持って来た・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・僕は自分の左脇にかかえるようにしてツネちゃんを療養所に連れ込み、医務室へ行った。出血の多い割に、傷はわずかなものだった。医者は膝頭に突きささっている鉛の弾を簡単にピンセットで撮み出して、小さい傷口を消毒し繃帯した。娘の怪我を聞いて父親の小使・・・ 太宰治 「雀」
・・・ 誰かが七歳と四歳になる二人の女の児を雪の深い森へ連れ込み零下十何度という厳寒の中へ裸にして捨てて行った。 女の児は凍え始め劇しく泣き出した。 もう日暮で――冬は午後四時にとっぷり暗くなる――折から一台の空橇が雪道を村へ向ってや・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫