・・・日常劇務に忙殺される社会人が、週末の休暇にすべてを忘却して高山に登る心の自由は風流である。営利に急なる財界の闘士が、早朝忘我の一時間を菊の手入れに費やすは一種の「さび」でないとは言われない。日常生活の拘束からわれわれの心を自由の境地に解放し・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・六月一日長子が週末で帰省したときに、自分はもう永くはないが、ただ一つ二つ仕上げておきたいことがあると云った。六月二十五日には「移動低気圧」に関する論文の最後の一節を夫人に口授して筆記させ、出来上がった原稿を Phil. Mag. に送らせた・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 自然と人間の割合がこんなに逆になる日曜日彼らの主人達は、ハイド・パアクへなんか姿は現さぬ。週末休に自用車をとばしてどっか田舎のクラブか、別荘か、公園か、とにかく彼の週給額を半径となし得るだけ遠くロンドンから飛び去る。 赤羅紗服地の・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫