・・・なぜかと云うと、篇中に出て来る人間の心状、及び動作がことごとくタイフーンと舟火事なる自然力を離れずに、どこまでも密接な関係をもって展化進行するから、自然と人間が打って一丸となされて、偉大なる自然力の裏に副え物として人間が調子よく活動するから・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
・・・そして汽車の進行する方角が、いつのまにか反対になり、西から東へと、逆に走ってることに気が付いてくる。諸君の理性は、決してそんなはずがないと思う。しかも知覚上の事実として、汽車はたしかに反対に、諸君の目的地から遠ざかって行く。そうした時、試み・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ただ、お前のその骨に内攻した梅毒がそれ以上進行しないってことになれば、まだまだ大丈夫だ。 お前の手、腕、はますます鍛われて来た。お前の足は素晴らしいもんだ。お前の逞しい胸、牛でさえ引き裂く、その広い肩、その外観によって、内部にあるお前自・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・開国革命、もって今の公議輿論を生じて、人心は開進の一方に向い、その進行の際に弊風もまた、ともに生じて、徳教の薄きを見ることなきに非ざるも、法律これを許し、習慣これを咎めず。 はなはだしきは道徳教育論に喋々するその本人が、往々開進の風潮に・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・億百万のばけものどもは、通り過ぎ通りかかり、行きあい行き過ぎ、発生し消滅し、聨合し融合し、再現し進行し、それはそれは、実にどうも見事なもんです。ネネムもいまさらながら、つくづくと感服いたしました。 その時向うから、トッテントッテントッテ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・我々の列車が、モスクワを出て三日目だのに既に十八時間遅れながら、社会主義連邦中枢よりのニュースを、シベリアのところどころに撒布しつつ進行しているわけである。 この『コンムーナ』は二十七日の分である。深い興味で隅から隅まで読んだ。丁度今こ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ きょう読みかえしてみると、日本の戦争進行の程度につれて、わたしの文章はふくみ声になって来ている。云いたいこと、表現すべき言葉がぼかされたり、暗示にとどまったり、省略されたりしている。「鈍・根・録」の冒頭の文章では警察と留置されてい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・時にはテーマの屈折角度から、時には黙々たる行と行との飛躍の度から、時には筋の進行推移の逆送、反覆、速力から、その他様々な触発状態の姿がある。未来派は心象のテンポに同時性を与える苦心に於て立体的な感覚を触発させ、従って立体派の要素を多分に含み・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・その夜、議事の進行するに連れて、思わずもナポレオンの無謀な意志に反対する諸将が続々と現れ出した。このためナポレオンは終に遠征の反対者将軍デクレスと数時間に渡って激論を戦わさなければならなかった。デクレスはナポレオンの征戦に次ぐ征戦のため、フ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
大地震以後東京に高層建築の殖えて行った速度は、かなり早かったと言ってよい。毎日その進行を傍で見ていた人たちはそれほどにも感じなかったであろうが、地方からまれに上京する者にはそれが顕著に感ぜられた。六、七年前銀座裏で食事をして外へ出たと・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫